抽出における考慮点(2)

これはご存知の方も多いサイトのフレーバーコーヒー「珈琲科学館」に書かれているうまみと渋みの性質の一部を私がまろやか成分と渋み成分に言い換えたものですが、これを「まろやか/渋み仮説1」としました。

まろやか成分:高い濃度の水溶液にもとける
         全体としてとけやすい

渋み成分  :低い濃度の水溶液にしかとけない
         全体としてとけにくい

うまいはおいしいに通じ、おいしいかどうかは多分に個人の嗜好によるところがあります。一方、まろやかかどうかは個人の嗜好による偏りが少なく、しかもまろやかなコーヒーは飲みやすくどなたにも好まれますので、私はまろやか成分に言い換えています。そして、この「まろやか/渋み仮説1」が成り立つと考えて考案したのが「うるおい式抽出」です。

抽出における考慮点 (1)

コーヒーの抽出において抽出結果を左右する条件は、粉の品質以外にも水の品質や粉砕粒度、粉の量、抽出湯温、抽出時間などが重要とされており、それぞれについての注意点やお勧めの情報は書籍やネットにあふれていますが好みは人それぞれですので基本的なことを知ったうえで自分好みの条件をみつけるのがよいでしょう。
1. 粒度:細かいほど(どの成分も)早く出る。
2. 湯温:高いほど(どの成分も)早く出る。
3. 時間:好ましい成分は早く出る。
というどのコーヒーにも共通な性質がありますので、初めてのコーヒー粉であればとりあえずは一般的な条件で始めましょう。粉砕粒度は中細挽き、量は1人前10g、湯温は85℃、時間は2分を目安に好みで調整すればよいでしょう。
ちなみに湯温は、実際にコーヒー粉に注がれる湯の温度です。出時間は2分で始めて少しずつ長くして好みの時間を探します。上の3要点はどの淹れかたにも共通ですが、うるおい式ではさらに特別な考え方を取り入れています。

円錐ドリッパーとうるおいドリッパー(2)

円錐ドリップ式に比べますと、うるおい式はその手順に特別の修練を必要とする部分がなく、量と時間をきちんと計ってやれば毎回安定した抽出ができます。それに、特殊な抽出原理を使って雑味成分をカットし、まろやか成分だけを取り出そうとします。この意味から、普段低品質のコーヒー粉を使用する方にはうるおいドリップのほうが向いています。つまり、コーヒーの抽出にはなんでも円錐ドリッパーという図式は妥当ではなく、どんな人がどんな品質の粉で淹れるかによってお奨めの抽出器が違うのではないかと私は考えています。

円錐ドリッパーとうるおいドリッパー(1)

円錐ドリッパーは近年ドリップ式の主流になっている感があります。これはメーカーの宣伝もあるでしょうが、おそらくそれまでのメリタ式、カリタ式より注湯の制御がきくというところに人気があるのだろうと思われます。当初はプロ向きとされていましたように、抽出技量の低い方がこれを使いますと淹れるたびに味がかわってしまうという結果になります。つまり、湯の注ぎ方による影響が出やすく、上手に淹れるのが難しいのでそれだけコーヒー教室が必要になるということになっているものと思います。

ドリップ式の淹れ方は、コーヒー粉の中にある成分をより多く取り出すのに優れています。高品質のコーヒー粉であれば悪い成分が少ないので淹れ方によらず雑味が出にくいのに対して、低品質のコーヒー粉であれば悪い成分も多いのでそれを出さないよう上手に淹れないと雑味の多いコーヒー液になってしまいます。ということは、抽出技量のない人がよいコーヒー液を取り出すには高品質のコーヒー粉をつかうのがよいということになります。これはコーヒーに限らずいわば当たり前のことで、新鮮でよい材料を使えば料理が苦手な人にもおいしい料理ができることと同じことでしょう。低品質のコーヒー粉からよいコーヒー液を取り出すにはどういう方法があるのでしょうか。技量の高い方であれば、粒度を変える、粉量を増やす、湯温を変える、抽出時間を変えるなど、コーヒー粉にあわせて上手によいコーヒー液を取り出すことができるかもしれません。しかし、これは注湯をしている約3分間もの間、毎回同じパターンの注湯が安定してできるだけの技量があってのことです。特に修練をしていない一般の方は、注湯そのものが安定していないため淹れるたびに取り出せる成分が変わってしまうので、味が変わるのです。これではよい抽出条件を見つけ出すことはできません。

濃く入れてうすめて飲むコーヒー教室(5)

これまで述べました低品質のコーヒー粉と言いますのはドリップ式で淹れたときそのコーヒー液に渋みがあるものをさしています。コーヒー粉の品質は抽出する時の品質を指しています。たとえ高い品質とされている生豆であっても、焙煎の技量によっては雑味の多いものが出来てしまいますし、焙煎がうまくいっても粉砕して日数が経ちますと品質は劣化していきます。スーパーマーケット等で売られているコーヒー粉はたとえ原料の生豆が高品質で、上手に焙煎されていたとしても粉砕されてから店頭に並ぶまではかなりの日数が経っています。これらの製品の多くの賞味期限は焙煎後半年〜1年程度先の日付ですので、田口護氏の言われるよいコーヒーの条件である「挽きたて」とはほど遠いものです。しかし、これらの製品は値段が手ごろで入手しやすいためかなり沢山の人たちが利用しているのも事実です。このようなコーヒー粉を淹れるにはドリップ式よりうるおい式のほうが向いていると思います。

濃く入れてうすめて飲むコーヒー教室(4)

ドリップ式で淹れるとおいしい高品質のコーヒー粉をうるおい式で淹れるとさらにおいしくなるかといえば残念ながらそうはなりません。まろやかですっきりしたコーヒーができることは変わりませんが、高品質のコーヒー粉のもつ香りや味の微妙なよさがでにくい欠点があります。「半返し」はその欠陥を補うための方法で、高品質のコーヒーのよさを引き出してかつ再現性の高い方法になっています。うるおいドリッパーを使いますといろいろなやり方で抽出ができるのですが、どのやり方が優れていると一概には言えません。あえて単純に言えば、低品質のコーヒー粉には「うるおい基本」か「打ち返し」、高品質のコーヒー粉には「漉し足し」か「半返し」が向いています。一手間かけてもよいなら「打ち返し」と「半返し」が効果的です。

濃く入れてうすめて飲むコーヒー教室(3)

教室ではおなじコーヒー粉をコーヒーメーカー(ドリップ式)で淹れたものと、受講生自らうるおい式で淹れたものとをその場で飲んで両者の違いを体験してもらっています。さらに、うるおい式の淹れ方を発展させた「打ち返し」と「漉し足し」、「半返し」も紹介します。帰山人さんの珈琲漫考によりますと「打ち返し」は「二度漉し(濾し)」の別名で、1960年代以前には珍しくない技法だったようです。「半返し」は関西の一部でドリップ式になされていた技法のようですが、これらの淹れ方をうるおい式に応用したものです。「打ち返し」をしますと、まろやかさが増します。相当品質が悪いコーヒー粉でも「打ち返し」をしますと一度漉しよりさらにまろやかで飲みやすくなります。また、湯量を減らせば濃縮コーヒーも作れます。できる濃縮コーヒーは少量ですがバニラアイスクリームにかけて家庭で手軽にアフォガートが楽しめます。