コーヒーサイフォンの動作原理は空気膨張ではない

サイフォンについて、その動作原理は水の気化と凝結なのですが、残念なことに市販の本には空気の膨張と収縮で説明してあるものが多々あります。コーヒーサイフォンは濃縮コーヒーを作るのに使う重要な器具ですので正しく理解されていない方のために解説してみたいと思います。

ごく簡単に言えば、水が沸騰して発生する水蒸気の力で水が上がって行き、火を止めると水蒸気が水に戻って真空に近い状態になるので吸引が起こるのです。

蒸気機関車が水が沸騰し気化するときに発揮する力を利用していることはよく知られたことですし、原子力発電所や火力発電所では水蒸気の力でタービンを回して発電していることも知られているところです。水蒸気は湯気と異なり、空気のように無色透明な気体ですが、サイフォンの水がフラスコからロートに上がっていくのもこの水が気化する力によるものです。フラスコに半分くらいの水を入れて熱しますと空気が膨張して水が沸騰する前にわずかながら水が上昇していくのが観測できます。たしかに空気も熱すれば膨張しますので全く寄与していないわけではありませんがその力は微々たるものです。フラスコ内に空気がないくらいにほとんど水で満たしてからはじめても水が沸騰しはじめると水はロートに上昇していきます。この事からも空気の膨張力ではなさそうだとわかるでしょう。

空気が膨張して体積が増えるのと、水が気化して体積が増えるのが全く比較にならないことは以下の数字を見ればわかります。0°Cの空気1ミリリットルが100°Cになったときの体積は、1.37 ミリリットルに過ぎないのに対して、0°Cの水1ミリリットルが、気化して水蒸気になったときの体積はおよそ1240ミリリットルになります。つまり、空気の膨張より約900倍も大きく増えるのです。これが水を押し上げる力です。この莫大な量の水蒸気の力により水が押し上げられ、続いてフラスコにあった空気も一緒に出ていくため、フラスコの中は底に僅か残る水以外ほとんどは水蒸気だけという状態になります。

では火を止めたあと続いて起こる吸引はどうして起こるのでしょうか。水蒸気は100°Cでは気体ですが温度が少し下がるだけで瞬間的に水に戻ります。フラスコの内部を満たしていた水蒸気の体積が1240分の1になりますので瞬間的に真空に近い状態になりこれが吸引を引き起こします。物理的には、フラスコ内部の圧力が大気圧より低くなるため、ロートに上がっていた水(このときには既にコーヒー液になっている)が大気圧に押されてフラスコに下がっていきます。これがいわゆる吸引と言われるものです。