まろやか/渋み仮説

普通にドリップ式で淹れると渋みが強くてブラックで飲めないようなコーヒーでも、濃く淹れてうすめれば渋みの少ないまろやかなコーヒーができます。どんなコーヒーでもそうなのかまでは私には分かりませんが、経験した範囲ではまだこれに反したことはありません。これがなぜそうなのか、については次のように信じています。

「まろやか成分は全体として溶けやすく、高い濃度の水溶液にも溶け低温でも溶けるのに対し、しぶみ成分は全体として溶けにくく、低い濃度の水溶液にしか溶けず、低温では溶けにくい」。

私はこれをどのコーヒーにも当てはまるものとして、勝手に「まろやか/渋み仮説」と呼んでいますが、元はフレーバーコーヒーの珈琲科学館でうまみとしぶみの性質について言われていることを少しゆるめて言い換えただけです。

当時私はサイクロン式コーヒーを考案してまもない頃でしたが、サイクロン式で淹れるとなぜまろやかなコーヒーになるのか、その理由は真空吸引によって短時間で抽出するからであろうと推測していました。ところが、たまに吸引に失敗して15分以上もかかって抽出を終わったときも、同じようにまろやかなコーヒーであることを何度か経験するうちに、短時間で抽出することは無関係ではないかと思い始めました。
一方、サイクロン式抽出をコーヒー文化学会の焙煎・抽出委員会という分科会でプロの方々に見ていただいたとき、うすめて飲むということに大きな反発がありがっかりしました。しかし、そこにいたIさんが皆さんに対して松屋式もやはり濃く淹れてうすめて飲むのですよ、と擁護してくださって非常に嬉しく思ったものです。

そのことがあって私は初めて松屋式なる淹れ方があることを知り、それを詳しく解説されているフレーバーコーヒーのサイトも知りました(http://www.flavorcoffee.co.jp/2f/index.html)。そしてうまみとしぶみの性質の記述をみて、サイクロン式がまろやかであることの理由がこれだと思い当たったわけです。

以来いくつも新しい抽出器や抽出法を考案してきましたが、ほぼすべてがまろやか/渋み仮説に立脚したものです。